第3話:私の役は吉川十和子。

『私の役は吉川十和子。』

 阪神大震災を境に、「昨日は今日を保証するもんじゃない。今日は、明日を保証するものでもない」ということを痛感したわたしは、すごくむなしかった。むなしい分、「何かを残したい」という気持ちだけが膨らんでいった。そして、あてもなく、吉本興業時代のことを書き綴っていた。

 わたしは、マネージャーとして本気で生きていた。ただ単にちゃらちゃらと横山やすしという人のマネージャーをやっていたんじゃなくて本気で彼とぶつかっていたこと。宮川大助・花子がなぜ売れたのか。吉本興業という会社がどんなふうに22歳の女の子を一人前のマネージャーに育ててくれたのかをメッセージしたかった。誰かに知ってもらいたかった。


 だけど、わたしがいくら原稿を書いても誰も本になんてしてくれない。「大谷由里子って、何者?」当然のことだった。それでも、いつか自費出版するつもりだった。じっとしているのが怖くて、動いていた。そんなわたしの原稿を出版社につないでくれたのが、三嶋さんという一人の音楽プロデューサーだった。彼は、わたしの原稿を持って出版社回りをしてくれた。そして、わたしの一冊目の本、「吉本興業女マネージャー奮戦記『そんなアホな!?』は、世に出ることになった。


 本が世に出たことによって、何が変わったか?人に会いやすくなった。パソコン通信で知り合ったメンバーは、次々にわたしの本を買ってくれた。そして、今まで以上にメールがはずんだ。また、メールでいろんな人に紹介してくれたりして、どんどん知り合いの輪が増えて行った。それまでのお客さんも、「この本を書いた女性だよ」と、さらに取引先を紹介してくれた。わたしの最高のPRツールができた。


 そして、その頃、NHKが「宮川大助・花子物語」を連続ドラマで放映することになった。しかも、わたしの役が吉川十和子さんだった。こうなったら、つかみもばっちり。「わたしの役を吉川十和子さんがやってまーす」というだけで、みんなに興味を持ってもらえて、そこに本を渡すと、大抵の人は会ってくれた。


 仕事も人脈もどんどん広がって行った。毎晩、いろんな人から誘ってもらった。ステキなお店に楽しい時間。家のことは放ったらかしだった。しかも、心のどこかに、「いつ、何があるかわからない。だったら楽しまなきゃ」なんて気持ちがある。今から思うと、すごく刹那的な日々を送っていた。そんなある日、一緒に会社を経営していた立田くんと石関くんがキレた。


つづく

第4話:社長が、ズル休み!?